
サステナブルピープル Vol.8
井筒屋グループは、企業の社会的責任を果たすべく、事業活動を通じてさまざまな社会課題の解決に貢献し、人々の豊かな未来と持続可能な(サステナブル)社会の実現を目指してまいります。本企画では、人と地域をつなぎ、豊かな未来を創造していくために、さまざまな業界のフロントランナーたちのお話を伺います。
1964年北九州市生まれ。高校卒業後、酒の卸販売を営む実家の仕事を手伝っていたが、20歳のとき神戸の酒造メーカーに就職。5年ほど勤めて実家に戻り、31歳(1995年)で溝上酒造に入社。「うまい酒を作りたい」という一心で酒造りに取り組み、2002年に福岡国税局の鑑評会で初受賞。以降、何度も受賞を重ね、北九州を代表する日本酒蔵としての地位を確立。現在は杜氏兼代表取締役として酒造りに情熱を注いでいる。
今回ご登場いただくのは、弘化元年(1844年)に創業し、180年以上の歴史を紡いでいる老舗の酒蔵「溝上酒造」の8代目、代表取締役・溝上智彦さんです。
地元の北九州に酒造を構え、脈々と受け継がれる技と豊かな自然が育んだ酒米、皿倉山の清らかな水や米こうじにもこだわった酒づくりに取り組んでこられました。代表銘柄である「天心」はこれまで数々の賞に輝き、今や北九州を代表する日本酒として知られています。
地産地消を目指し、杜氏として持続可能な酒造りに情熱を注ぐ溝上社長に、8代目としての思いや今後について、お話を伺いました。
溝上酒造は江戸時代の弘化元年(1844年)、大分県中津市で誕生しました。昭和6年(1931年)、現在の八幡東区皿倉山の麓に清らかな湧水を発見。気温の低い谷間という自然環境も「寒造り」に適していることから酒蔵を移転。現在は北九州の蔵元として愛される存在です。
・・・入社した当時、溝上酒造は存続の危機だったとお聞きし、驚きました。
色々あって、溝上酒造は廃業する流れになっていたときに入社しました。当時は杜氏も退職して、お酒を作る人がいませんでした。私が以前、神戸の酒造メーカーに勤めていた縁で、なんとか神戸から杜氏さんに来ていただいたのですが、その方も高齢で、1年しか酒を作れないという話になり…。そこで入社2年目から、私が杜氏として酒造りを始めました。
素人ですから本当に大変でした。教科書を見たり、福岡国税局鑑定官室に電話で聞いたりしながら、ほぼ独学です。おいしい酒を作るとか、そんなレベルではなくて。当時を振り返ると、本当によくやったと思いますよ。すごい度胸だし、今だったらできない(笑)。でも、長く続く酒蔵を絶やしてはいけないし、自分がなんとかしないといけない、と必死だったんですね。
・・・手探りの時期から今のレベルに到達するまで、何か転機はあったのでしょうか。
ありました。最初の1、2年はお酒ができただけで喜んでいましたが、3年目くらいに福岡県の酒造組合が開催する、杜氏による利酒の会に初めて参加したんですよ。当然、皆さん一番出来がいいものを持ち寄ります。そこで他の蔵のお酒を飲んで、とにかくショックを受けました。当然ですが、自分の作っているお酒とあまりにも違いすぎたんです(笑)。日本酒の主原料は米、米麹、水ですから、原料としては同じものを使っています。なのに味と香りが全然違う。そこから「自分も作るならうまい酒を作りたい!」と、気持ちに火がつきました。これが、間違いなく転機でしたね。
そこからは、年がら年中、頭の中は酒造りのことばかり。目標を「鑑評会で賞を取る」ことに掲げ、酒造りを必死に学び、試行錯誤を重ねました。ようやく2002年に福岡国税局の鑑評会で優秀賞を受賞したときは、本当に嬉しかったですね。じゃあ次は全国で受賞しようとか、3年連続で受賞しようとか、目標をどんどん更新しながら、現在も「今年より来年はもっとうまい酒を作ろう」という気持ちで酒造りをしています。
・・・向上心を忘れず、日々仕事に取り組んでいる溝上さんが、酒造りにおいて一番大切にしていることを教えてください。
米麹は自分達で作りますが、日本酒の主原料である米と水は、我々が作っている物ではありません。水は皿倉山の麓から湧き出る清らかな水を使い、米は、信頼のおける北九州の農家さんが生産する山田錦(酒米)を使っています。溝上酒造は、北九州の皆さまに愛されることで、今日まで歴史を紡ぐことができています。深い感謝の気持ちを表すには、地元の素材にこだわって酒造りをすることが大切だと考えています。
北九州では難しいと言われた酒米作りを実現させた、北九州の農家・倉成さん。溝上社長と同じ情熱で酒米作りに挑み、現在は溝上酒造のほとんどの酒米を、倉成さんの「北九州産山田錦」でまかなっています。
うまい酒を作るために、原料にこだわるのは当たり前のことですが、一番大切なのは、最後に味を決める「人(造り手)」。生かすも殺すも「人」なんです。ですが、日本酒は工程が複雑なうえに時間もかかるし、原材料の良し悪しだけでなく、気候や環境などでも味が変化してしまいます。再現性が低いので、毎回、同じ味を作り続けるというのが本当に難しいんです。だから私がいつも従業員に言っているのは、とにかく基本に忠実に、手を抜かず、きちんと仕事をする、ということ。これがとても大切なことだといつも感じます。
・・・井筒屋とのお付き合いも長く、創業80周年、90周年の時はオリジナルの日本酒を作っていただきました。
長い間、井筒屋さんのお酒売り場に「天心」を置いていただき、本当に助かっております。ありがとうございます。創業90周年では、「純米大吟醸 縁紫(えにし)雫取り」を作らせていただきました。福岡県産米「山田錦」と「夢一献」を使用し、希少な雫酒だけを集めた日本酒です。企画から井筒屋の担当者の方と一緒に話し合い、別タンクで作り上げた、井筒屋のための、完全オリジナルのお酒です。
※限定数に達し次第、販売を終了いたします。
※20歳以上の年齢であることが確認できない場合には酒類の販売はいたしません。

天心 介 BASIC 藍輪舞(720ml) 4,400円 (税込)。
口に含んだ瞬間にしっとりとした上品な甘みと、これまでにない独特な香りが広がります。飲み進めるとすっきりした口あたりなのに米の旨味が増し、相反する要素が変化しつつ、渾然一体となる味わいです。
※限定数に達し次第、販売を終了いたします。
※20歳以上の年齢であることが確認できない場合には酒類の販売はいたしません。
・・・酒造りは、そもそもサステナブルな産業ですよね。
そうなんですよ。日本酒を造っている蔵元は数百年続いているところが多く、日本の文化や歴史、ものづくりの精神を現在まで受け継いでいる、まさにサステナブルな産業です。地域の米や水を使用していますし、そもそも、原料の米は酒粕として利用しているので、捨てるところは一切ありません。酒造りには昔から当たり前のようにサステナブルの概念が脈々とあり、それを今後も続けている、ということです。
・・・最後に、溝上社長の今後の夢や目標などを教えてください。
弊社は2〜3年前から梅酒を作り始めたくらいで、基本は日本酒しか作っていません。日本酒を作る時期というのは、10月から4月くらいまでですが、それ以外は閑散期です。繁忙期と閑散期の仕事量が違いすぎるので、どちらかに合わせると人が多すぎたり少なすぎたりしますし、繁忙期にアルバイトを雇っても、毎年人が変わり、作業を教えるのにも無駄があります。そこで、年間を通じてお酒を作る「四季醸造」に挑戦したいと思っています。
福岡県内でもいくつかの酒蔵は実施しているのですが、四季醸造をすると雇用がスムーズになり、年間を通して作るので在庫も減ります。また、常に絞りたての新酒を販売できるので、フレッシュでフルーティーなお酒を供給できるんです。投資に応分の費用がかかるという問題以外は、メリットしかありません。いきなり年間を通じて作るのは難しいかもしれませんが、真夏を避け、少しずつ醸造する期間を伸ばしていきたいと思っています。
あとは、北九州の飲食店でもっと地元の酒を提供してもらえるように、宣伝しないといけません。例えば、広島や山口などの他県に行った時、居酒屋や宿で提供されるのは、ほとんど地元の酒なんですよ。でも福岡県は、県外の酒を提供する店が多いんです。置いていたとしても、申し訳なさそうに少し置いているくらい(笑)。実は福岡県内の蔵元は50軒近くあって、全国5位の多さなんです。
日本酒ってどこで飲まれているかといえば、やはり飲食店が圧倒的に多いので、まずは味を知ってもらって、取扱店を広げていかないといけない。福岡では地元の酒があまり提供されていないという状況を変えていきたいですね。
昨今の報道によりますと「米問題」で、酒米から食米に転作する農家が増えたことや、近年続く異常気象で、米の生育が不安なこと。酒造りを取り巻く状況には一段と厳しくなっているようです。
井筒屋でもさらに「天心」の魅力を伝えるお手伝いをさせていただきますが、まずはみんなで地元のお酒を味わい、楽しめたら良いと思います。
溝上酒造の商品は井筒屋オンラインでもお求めいただけます↓
井筒屋オンラインショッピングはこちら
今回取材させていただいた溝上酒造のHPはこちら↓
溝上酒造
【サステナブルピープルVol.7】
食を通じた活動で、サステナブルの先にある
”幸せ”を広げていく〜
九州福祉栄養大学 室井由起子先生
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